台風などの自然災害が発生した時の労務管理について!!
2019/06/26
2019/06/26
毎年のように日本各地で台風や地震などの自然災害が発生しています。集中豪雨や落雷、冠水などが起きると、交通機関がストップしてしまい、居住地域によっては遅刻または通勤が困難になるケースがあります。これは神奈川も例外ではありません。たとえば、2018年に発生した台風24号では、横浜を中心に22市町で740棟以上の住宅被害がでるなど、甚大な影響を受けました。[注1]
社会保険労務士のもとには、このような自然災害時における勤怠の取扱いや従業員の安全配慮についての相談が多く寄せられます。
今回は社会保険労務士の視点から、自然災害時の労務管理について相談事例を中心に解説します。
台風が発生すると公共交通機関がストップすることがあり、会社は従業員に対して早めの帰宅を促したり、自宅待機をさせたりといった指示を出す必要がでてきます。
このような場合、会社は不就労分の賃金と安全配慮義務について考えなければなりません。
(1)終業時刻より早く帰宅させた場合の給与処理は!?
たとえば公共交通機関停止を見越して、2時間早く帰宅を許可した場合、2時間分の賃金をカットするかどうかという問題が浮上します。
実際に労働しなかった2時間分の給与は、労働契約法第6条に基づく「ノーワーク・ノーペイの原則」の観点から、不就労分としてカットできます。
しかし実際は、時給者の場合に適応される傾向にあり、月給者の賃金までカットしている企業は少ないようです。
(2)安全配慮義務は!?
会社は、従業員の生命や身体などの安全が確保できる環境を整える「安全配慮義務」を負っています。
そのため会社は、自然災害時などに従業員に出社を強制して怪我を負わせてしまうと、安全配慮義務違反による損害賠償責任を負う可能性があります。災害の規模にもよりますが、遠方に住む従業員から随時退社させ、全員が無事に帰宅できるよう安全配慮義務をまっとうする必要があります。
納期が逼迫しているといった、どうしても早く帰れないような場合は、宿泊先の手配などの配慮が必要でしょう。
(2-1)台風発生時における神奈川の各公共交通機関の対応
交通機関ストップの原因の最たるものが台風による暴風です。各公共交通機関は運休の判断をする際の目安を設けており、神奈川を通る交通機関も同様です。神奈川を走る主な公共交通機関が設けている、暴風による運休の目安は以下のとおりです。[注2,3,4,5]
JR東日本 | 風速毎秒25m以上 |
東急電鉄 | 風速毎秒25m以上 |
小田急電鉄 | 風速毎秒25m以上(一部区間で30m以上) |
相模鉄道 | 風速毎秒25m以上 |
このように各社、風速毎秒25m以上を記録すると、運転を見送る傾向にあります。
台風が発生して自宅待機といった指示を従業員に出す際には、上記の表を目安にすることができるでしょう。ただし、この風速は各社が設置した風速計に基づく数値ですので、気象庁から発表される風速とは異なる可能性があります。
交通機関が停止していても、経路を変えて出社するケースがあります。この場合の労務管理もしっかりと把握しておく必要があります。
(1)迂回経路での通勤に伴う通勤交通費の支払義務は!?
交通機関が不通となったとき、別の交通機関(迂回経路)を利用して出社する、もしくはタクシーを使って出社する従業員もいます。その場合の通勤交通費については、別途追加支給する必要はありません。実際に、迂回分の交通費を別途支給している会社は少数です。
(2)交通機関ストップに伴う遅刻・欠勤の場合の給与処理は!?
交通機関がストップして遅刻した、または出社できない場合、法律上では「ノーワーク・ノーペイの原則」から、その時間分・日数分の賃金をカットできます。
しかし、実務上では、「遅延証明書」の提出を条件に遅刻時間分の賃金をカットしていない会社や、出社できない場合は年次有給休暇を充当するなどの対応を取っている会社が多い傾向にあります。
ただし、交通状況は使う交通機関で異なるため、時間どおりに出社している従業員もいます。このような従業員に不満感を抱かせないためにも
交通機関の遅延が予想される場合は、遅刻しないために早めに家を出ることをあらためて従業員に周知しておく必要があります。
なお、厚生労働省では平成28年熊本地震の震災被害により出勤できなかった労働者の賃金取扱いについて、下記のとおりコメントしています。
『労働契約や労働協約、就業規則などに労働者が出勤できなかった場合の賃金の支払について定めがある場合は、それに従う必要があります。
また、たとえば、会社で有給の特別な休暇制度を設けている場合には、その制度を活用することなども考えられます。このような定めがない場合でも、労働者の賃金の取扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労働者の不利益をできる限り回避するように努力することが大切です』[注6]
従業員の落ち度ではない自然災害を原因とする勤怠管理では、「ノーワーク・ノーペイの原則」による賃金カットにこだわらず、みなし労働や年次有給休暇を充当するなど社内の取り決めを従業員に周知徹底して、社内秩序の維持を図る必要があります。難しく感じることがあれば、社会保険労務士に相談しましょう。
[注1] カナロコ:【台風24号】住宅損壊740棟超 横浜市中心に22市町被害
https://www.kanaloco.jp/article/entry-37954.html
[注2] JR東日本:強風時の新しい運転規制方法の検討
https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_35/Tech-35-36-41.pdf
[注3] 東急電鉄:おしえて!東急線 悪天候や地震のときの運行編
https://www.tokyu.co.jp/tokyu/oshiete/20161228.pdf
[注4] ライブドアニュース:雨や風で電車が止まる基準を聞いてみました!
http://news.livedoor.com/article/detail/6904455/
[注5] 相鉄グループ:そうてつの安全・安心を教えて
https://www.sotetsu.co.jp/csr/safty/pdf/safe13.pdf
[注6] 平成28年熊本地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第2版)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000123372.pdf